塩酸アマンタジン (シンメトレル®) の光と影

A型インフルエンザに対する経口薬として発売された塩酸アマンタジンはパーキンソン病の治療薬としてよく知られている. 左中大脳動脈梗塞で失語症を発症し, 寝たきりになって, 施設に入所している患者さんが紹介されて脳神経内科を受診した. 紹介状にはこのようにあった. 患者さんはパーキンソン病で薬剤コントロールを受けている様子だが, せん妄があって抗ドパミン薬である抗精神病薬の投与を考えている. ところがドパミン薬であるLドパをすでに飲んでいるので拮抗する薬剤は処方しにくくどう考えたら良いのか. というものである. 従ってパーキンソン病の治療薬のLドパがせん妄を引き起こしているのかも知れない. 私は自分の病院が関わっているのでLドパがどこから処方されたのかを電子カルテでいろいろ調べたがはっきり分からないのだ. 当院の脳神経外科で脳梗塞の治療を受けて塩酸アマンタジンが処方されていることは分かっている. その後は何カ所からの施設を経て現在のところに入所しているが, パーキンソン病の治療をしているとどこにも書かれていないにもかかわらず突然処方に加えられている. 私の推論はこうである. 塩酸アマンタジンはパーキンソン病の治療薬であると同時に脳梗塞後の自発性改善にも用いる. 脳神経外科が後者の適応で処方したのがパーキンソン病の治療をしていると勘違いされて, パーキンソン病の最も強力な治療薬であるLドパを追加処方されてしまったのではないかと. 処方は施設の医師からかも知れない. 患者は麻痺は軽く, 四肢はまったく固縮がなく, 振戦もないのでパーキンソン症状とは言いがたい. 私は MIBG 心筋シンチを依頼して, 心筋への十分な取り込みを確認することでパーキンソン病ではないという最終判断をした. 紹介状に対しては, パーキンソン病ではないのでLドパは中止してけっこうですと書いた. 実は脳梗塞後の自発性低下に対する塩酸アマンタジンは, 一般開業医さんでもよく処方されており広く周知されている. 私も処方したことがあるが残念ながら紹介されてきた患者さんに対して同薬の中止を求めることの方が多かった. この薬は夜間せん妄や興奮などの副作用がよくある. また同薬は他にも著効する事があって, それはパーキンソン病に対してLドパを処方した時に生じる不随意運動に対してである. と言うわけでこの薬の使い方にはコツがあり, 副作用も出やすい. 薬物の功罪はどの薬にもあるものだが, 最近それを痛感した事例であったのでここに記した.

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