超弩級ターンテーブル奮戦記

譲って頂いた超弩級を組立てる. 下写真で三角形 (六角形) の部分は台座 (フレーム) だ. 3 本の円注が見えるが, これにはネジが切ってあり, 回転させることで水平をとる仕組みになっている. この円柱にさらにトーンアームを搭載する台を付ける. 中心はターンテーブルの軸孔で輪状の溝の奥にはネオジムマグネットが埋められてある.

下写真がプラッター(ターンテーブル) であり裏から見たところである.

上写真, 軸のそばに見える輪状部にもネオジムマグネットが挿入されている. 軸を孔に挿入するとマグネットで反発し合う.

まずはオリエンタルモーター製 AC スピードコントロールモーターで回してみた. 当初はゴムベルト仕様であった. スピードコントローラーが付いているので容易に回転速度は変更できる.  33.3 回転/分をどうやって測定するかをネットで調べたが,  RPM speed and wow というスマホソフトが見つかった. 早速アプリをインストール. スマホをターンテーブルに載せるとリアルタイムで回転速度が表示され, しかもスマホの中で回旋して, 同じ方向を保ち続けるので容易に読み取れる. スマホに入っている加速度計を働かせている. これで回転速度をリアルタイムで 33.3 に近付ける事ができる. 計測中表示は 33.3 の小数点 1 桁で, 回転するたびに数値が変化するので wow 値はあまり良くない. 測定結果は小数点 2 桁で表示される. wow 率も計算されるが最初は 0.4 % とか 0.6 %という数字であった. パールマン/アシュケナージのクロイツェルソナタでは緩徐奏部で聴覚的に wow が聴き取れる. ちなみによけておいたラックスマン PD300 に載せると 33.3 という数字には揺るぎがなく, wow は0.09% と表示された. 40 年間働いても大した誤差がなくびっくりである. 超弩級は桁違いに wow  値が高いのである. 考えたのはターンテーブルの水平, ゴムベルトの張りなどいろいろためしてゴムベルトは一定以上の良い数値が出ないので諦めることになる. たこ糸はゴムベルトよりはよい成績であり,  スリップを減らす目的で 2本ドライブにしてみた. これでなんとか最低で 0.2% ほどに持って行けた.しかし数値は測定するたびに微妙に異なった.

再度鬼頭氏邸を訪れると, AC ヒステリシスシンクロナスモーターを搭載した自作のドライブユニットと種々の大きさのプーリーを分けて頂いた.  こちらの方が古く, 古典的な技術によっている. このユニットのモーターは定速で回転しており, 回転数の調節ができない. 昔のムックを読むと, この種のモーターを使うにはプーリーで調整しなくてはならないので大変手間が掛かると書いてある. 糸ドライブでは多少スリップがでるので 33.3 に保つことが困難となる. 必然的にスリップしないウレタンコードの出番ということになる. 直径 2mm のウレタンコードを早速試すと 0.25% が常時出ることが判明した. だが最も近似なプーリーでもスピードは 33.4 ~33.5 とやや速くなってしまう. 実際には針を落とすと抵抗がありこれ位がちょうど良いかと思う. もし遅くするのであればやすりをプーリーに当ててわずかに削ることになる.

ところがこちらのモーターを使用している内に様々な欠点に気付いた. モーターの振動が棚やフレームを伝ってカートリッジが拾っているのだ. これはレコードの最内周を回っている状態でモーターの電源を入れ切りすると明瞭で, 低音のノイズがのっている. モーター底面にジェル状防振材を貼って見たが改善は今ひとつである. さらにモーターユニットから高音の騒音が常時出ていることに気付いた. これはちょうど耳の高さにあるために, 一度気になり始めたらもうだめである. もう一つユニットのアルミの箱は相当に熱くなり, モーターの発熱が半端でないことがわかった. 以上でヒステリシスシンクロナスモーターは諦める事になった.

改めて AC スピードコントロールモーターに取り替えてみることになる. この機械は仕様書を読むと, サーボ機構が付いており, 負荷が掛かるとトルクが増す仕掛けがある. ということはわずかな負荷の変化がターンテーブルの wow をもたらす. モーターの回転むらがターンテーブルに伝わらない方が良い訳だ.  従って糸はすこし滑るものが良いとみた. そこでアラミド糸を凧結びにして 2 本使用したところ Wow は 0.25%前後となった. この数値なら聴感上も気にならない, あまり数値にとらわれずに音楽を楽しむことも大事であろう. PD300という立派な装置からこちらに鞍替えしてしまったが, 聴感上どちらが良いのだろうか. そういう問題ではなく手作りであることにこだわりたい. 磁石で宙に浮いた LP 盤から出た情報だからきっと天から降り注ぐような音になるのではないか. かくして私のアナログオーディオはカートリッジ, トーンアーム, 昇圧トランス以外は手作り製品 (人の自作も含む) となった. ちなみに最近は Fostex バックロードホーンで聴いている.

上記が RPM speed and wow を用いて測定した結果の画面. 右はグラフボタンを押して速度の変化をグラフ化したものである.

現在市販のターンテーブルにはどのようなモーターが使用されているのだろうか. DD は廃れておりベルト式が多いようだが, なんとなくDC (サーボ) モーターが多いのではないかという結論が出てきたが, まだ十分な確証がない. このようなことでずいぶん試行錯誤し悩んだのだが RPM speed and wow のおかげでここまで追求できたことを思うとこのソフトのすごさを痛感する.

2023/6/9 chat GPTで wow 率が何%以上で聴感上問題を生じるか尋ねてみたら回答は以下であった. 「一般的には、Wow率が0.3%以下であれば、ほとんどの人にとって問題はないと考えられますが、より高い要求を持つ人や高品質の音楽再生を求める場合には、さらに低いWow率を持つターンテーブルを選ぶことが好ましいかもしれません。」