負のスパイラル 2

論文投稿の挫折

BMC という英国のオープン雑誌に症例報告を 2 編投稿しようとしていた. 結局挫折したがその間に 2 年ほど経過した. 当方年齢的にもほとんど定年で結論から言うと採択されるのに必要な能力をすでに欠いていたといっても過言ではないのかも知れない. 実際英文の論文執筆は集中力, 緻密な構成力, 複雑な考察能力を要する. 英語に換えることは今や簡単だが元の日本語に必要以上に工夫がいるし, 英文に修正を加えるのはやっかいな事だ. 1 編は銀杏中毒の症例で査読では筆舌に尽くしがたいほどの苦労をしてなんとか修正した. ところが最終的に書き直せというのである. 英語で言うと ” rewright” である. 全面的に書き直せと言うこと. 何をどう直せという指示がなく単に書き直しを命じると言うことが何を意味するのか理解するのにそれほど時間はかからない. 遠回しの reject である. この論文に対する査読意見には他にも理不尽を感じさせるものがあった. 「治療について書くな」. これは英語で言うと” do not mention to the treatment” だったと思う. 実は注意事項に case report ではより高い evidence level を必要とする treatment については書くなという表記が見られる. 一方において “Authors should follow the CARE guidelines and the CARE checklist should be provided as an additional file.” となっていて CARE では総ての治療内容を書きなさいとなっているのだ. 要は double standard で, これでは著者も困り果てる. もう 1 編は傍腫瘍性小脳変性症に関する論文でこれは 3 名の査読者がいた. 即 reject ではなかったので大変な努力をして何とか査読をすり抜けようとした. すごい返事が返ってきた. 3 名の内 2 名の査読者と連絡が取れないので 1 名の査読者を加えたところ, その査読者によって論文は reject されたと. これらを通じ, 彼らの査読は論文に対する批判というよりも日本人に対する差別と偏見がひどいと感じた. 最も誰にも批判されない立派な論文を書いているわけではないので仕方が無いかも知れないが. この様なわけで前者は最終的には IM 誌に, そして後者は neurology and neurosurgery という典型的なハゲタカ雑誌に大枚はたいて引き取ってもらうことになった. ハゲタカ雑誌はすごかった. こんな原稿がありますといってメール添付すると 1 晩でその雑誌の format に合わせてきれいに編集してくれるのです. 一般にひとつの雑誌に reject されるとそれより程度の低い雑誌に投稿し直すのだが引用文献の format が異なるために reformat が必要である. そこで reformat してくれる文献ソフトを使用するのだが, 必ずしも狙った雑誌の format をソフトが持っているわけではない. そしてもう面倒で嫌になってしまうのだ. これらの 1 連の過程は文章にすれば簡単だが実は本当に苦しかった. ハゲタカにお金を払うころには私は青息吐息で, 学問はもう終わりにしよう. 本当にそう思った. 悪いことばかりではないもので, その後部下と書いていた数編の論文を FMJ という雑誌に書いていた. 最近この雑誌が何とPubMed で検索されるようになったのだ. かの医師も綱渡りどころかもう空中を飛んでいることになったのだ.

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